有田焼の「トレジャーハンティング」とは?
トレジャーハンティング提案はブラジル出身のアーティストから
幸楽窯トレジャーハンティングの魅力と楽しみ方
幸楽窯ではアウトレットの有田焼なども販売
まとめと予約方法

日本を代表する焼物のひとつである「有田焼」。白磁に藍色や赤・黄・金など鮮やかな色で装飾された、硬く丈夫な器です。この有田焼を、宝探しのような感覚で求めることができる「幸楽窯トレジャーハンティング」が佐賀県の窯元で開催されていることをご存知でしょうか?

今回は、多くの外国人が訪れる有田焼の窯元「幸楽窯 徳永陶磁器(株)」で、有田焼トレジャーハンティングの楽しみ方や魅力、そして誕生の経緯を探ってきました。

有田焼の「トレジャーハンティング」とは?

トレジャーハンティングのトロ箱

数ある有田焼の中から自分のお気に入りを見つける「トレジャーハンティング」

今回ご紹介する有田焼の「トレジャーハンティング」とは、150年以上の歴史を持つ有田焼の窯元「幸楽窯 徳永陶磁器(株)」で体験できるアクティビティ。倉庫に積まれた数えきれないほどの有田焼の中から自分が気に入った器を選びカゴに詰めていくという、まさに宝探しのようなスタイルで有田焼を購入できるプログラムです。

幸楽窯全景

佐賀県有田町に立つ「幸楽窯 徳永陶磁器(株)」がトレジャーハンティングを行っている

幸楽窯トレジャーハンティングのコースは「5,500円コース」と「11,000円コース」の2つを用意(いずれも税込価格)。

5,500円コースでは白磁に藍色の装飾が施された有田焼を、11,000円コースではさらに赤・黄・金など華やかな装飾が施された有田焼を選ぶことができます。

宝探し感覚でお気に入りの有田焼を探すというトレジャーハンティングは、日本人だけでなく外国人観光客からも多くの支持を得ているそう。トレジャーハンティングでカゴに詰めた有田焼は海外発送もしてくれます。

トレジャーハンティング提案はブラジル出身のアーティストから

トレジャーハンティングの誕生の経緯を探る前に、まずは有田焼の制作工程について知っておきましょう。

有田焼の制作工程について

濃い藍色で絵付けされた有田焼

藍色が美しい有田焼

有田焼は、陶磁器の原料「陶土」で形を作る工程「成形」をしたのち、成形し乾燥させた素地を約900℃の低い温度で焼く「素焼き」を行います。素焼きのあと、藍色に発色する「呉須」という絵の具で絵付けをする「下絵付け」を施し、ツヤを出すガラス質の液体「釉薬」をかけます。1,300℃ほどの高温で焼き上げる「本焼成」という工程を経て、呉須のみで飾られた「染付け」と呼ばれる製品は完成します。

本焼成の後は、赤・緑・黄・金など、藍色以外の絵の具を表面に施す「上絵付け」を行うことで、鮮やかな色彩を持つ有田焼が仕上がります。そしてこの一連の工程を、有田焼では伝統的に複数の窯元が分業し作っているのです。

つまり、藍色の呉須のみで装飾されたシンプルな有田焼は本焼成という焼きの工程を経て完成しますが、カラフルな有田焼はさらに「上絵付け」を施す必要があるということです。

幸楽窯トレジャーハンティングの誕生は、幸楽窯に勤めるブラジル出身のアーティストによるこの「本焼成」後のシンプルな有田焼を販売しようという発案がきっかけでした。

上絵付け前の「仕掛かり品」の美しさを見出す

ピメンタ氏

アーティストインレジデンスのプログラムで幸楽窯にやってきたピメンタ氏

トレジャーハンティング誕生のきっかけを作り出したのは、ブラジル出身のアーティストであるピメンタ・セバスチアオ氏。彼は、窯のさまざまな設備を使って作品制作ができる「アーティストインレジデンス」という長期滞在型の制作活動プログラムを活用し日本にやってきたアーティストのひとりでした。

ちなみに取材日は、イギリス人のアーティストが幸楽窯の「アーティストインレジデンス」を活用し、1カ月の滞在で作品制作を行なっていました。本プログラムでは、敷地内にある宿泊施設「HAPPY LUCKY GUEST HOUSE」に宿泊・滞在しながら作品制作をできるそうです。

制作活動するイギリス人アーティスト

制作活動するイギリス人アーティスト。数カ月以上滞在する人も

さて、当時ブラジルから訪れたピメンタ氏は、幸楽窯で作品制作をするためのいい場所がないかと探していたとき、上絵付けがすぐにできるようにと本焼成後の有田焼(仕掛かり品)が大量に積まれた倉庫を見つけたそう。積まれた有田焼はどれも色鮮やかな上絵付けは施されていませんが、「現代的に見える」とピメンタ氏はこの仕掛かり品たちを売りたいと社長に直談判します。

仕掛かり品の器たち

仕掛かり品の有田焼たち

もちろんすぐにはうまくいかず、社長からは「未完成品だから」と難色を示されてしまいます。そこで、この仕掛かり品たちをピメンタ氏が撮影しネットにアップすると、外国人の仲間から好反応を得られたため、社長に再度提案し、販売を計画することに。

整然と棚やテーブルに並べて販売するのではなく、あえて箱の中に入ったままの状態で販売しているのも、ピメンタ氏が「高く積まれた有田焼の中から宝探しのようにお気に入りを見つけるのが楽しい」と提案したためです。

こうして2014年1月、上絵付け前の仕掛かり品を販売する「幸楽窯トレジャーハンティング」がスタートしました。

日本各地だけでなく海外からの観光客も多く訪れる幸楽窯トレジャーハンティング

その後、ピメンタ氏による情報発信により、ブラジル、アメリカ、オーストラリア、アルゼンチンなどの九州在住の外国人たちが少しずつトレジャーハンティングをしに訪れるように。かつての有田焼の仕掛かり品が「モダンで美しい」と人気を博し、トレジャーハンティングを楽しむ人たちが増えていきます。

幸楽窯トレジャーハンティングを楽しむ観光客

今では多数の観光客が訪れる幸楽窯トレジャーハンティング

幸楽窯トレジャーハンティングは日本でも旅行サイトやブログ、SNSなどで取り上げられるようになり、今では日本人だけでなく、韓国、台湾などアジア系外国人も多く訪れるのだそう。週末は1日あたり100人以上が幸楽窯トレジャーハンティングを楽しみに訪れています。

幸楽窯トレジャーハンティングの魅力と楽しみ方

今回は特別にピメンタ氏に案内してもらいながら、幸楽窯トレジャーハンティングの楽しみ方を紹介していきます。

仕事中のピメンタ氏

幸楽窯トレジャーハンティング発案者・ピメンタ氏に案内してもらう

幸楽窯トレジャーハンティングの開始時間は10時と13時。制限時間90分の間で自分のお気に入りの有田焼を見つけカゴに入れていきます。有田焼の量がカゴの高さを大きく上回った時は、追加料金を支払い持ち帰ることも可能。

トレジャーハンティングのコースは前述の通り「5,500円コース」と「11,000円コース」の2種類ありますが、どちらのコースを選ぶかは、一通り倉庫内を見て回ってから決定してもOKとのこと。

幸楽窯トレジャーハンティングエリアには「トロ箱」と呼ばれる木箱にたくさんの有田焼が

トレジャーハンティングエリアに入ると、昔、水産業者などが海産物を出荷する際に使っていた「トロ箱」がたくさん多く積み上げられています。有田焼は、このトロ箱の中に詰められています。

トレジャーハンティングエリアに積み上げられたトロ箱

トレジャーハンティングエリアに積み上げられたトロ箱

有田焼のストックや出荷用にトロ箱のサイズがぴったりだったことから、海産物用で使っていたトロ箱を中古で入手し乾燥させ、魚の臭みを取り除いた上で使っていたそうです。現在はストックや出荷時にトロ箱を使うことはありませんが、数十年前の有田焼の工場の雰囲気をこのトロ箱からも感じられますね。

トレジャーハンティング最大の魅力は「自分だけの有田焼」を発掘できること

大量の有田焼

ここからお気に入りの有田焼をピックアップしていく

トレジャーハンティングの最大の魅力は、数えきれないほどの有田焼の中から自分の感覚にあった器を発掘していくこと。ピメンタ氏もコースを回りながら、「これはこういう雰囲気の時に使えますよね」と器から色々な発送が浮かんでいる様子でした。

コースの案内をするピメンタ氏

器を手に使い方のイメージを膨らませていく

通常はゲストが自由にコースを回っていきますが、ピメンタ氏の手が空いているようだったらぜひ器を片手に相談してみてください。器の使い方の新たなアイデアが出てくるはず。

もちろん、積み重なったトロ箱を移動させながらお気に入りの器を探していくことも可能。隠れたトロ箱の中に、運命の有田焼との出会いが待っているかもしれませんよ。

有田焼を包んでいく様子

ピメンタ氏に教わりながら有田焼を包む

購入を決めた器は、ピメンタ氏からレクチャーを受けながら、1つ1つ自ら新聞紙で包み、箱詰めします。箱詰めしたものを持ち帰るか、宅配便で送ることができます。

11,000円コースでは他の窯の有田焼も扱う

10,000円コース

色彩豊かな有田焼や他の窯の有田焼も探せる11,000円コース

今回筆者は11,000円コースのエリアも案内してもらいます。ここでは前述の通り、幸楽窯で作られた色彩豊かな有田焼も多く積まれています。有田焼制作を商社から受注した際、幸楽窯では不良品が出ることを見越して受注数よりも多めに器を作りますが、余分に完成した正規品の器は引き取られずに残ってしまうのだとか。11,000円コースでは、在庫として残ってしまったそれらの一級品の有田焼をハンティングできるのです。

ちなみに、もともとこのエリアは、トレジャーハンティングのための場所ではなかったそう。ですが、他の有田焼の窯元から、色付けされたものを含む食器をトレジャーハンティングで販売してもらえないかと打診があり、新たなコースとして作られました。ピメンタ氏は「有田焼には様々な技法があるため、ここでは幸楽窯とは違う器も探してもらえるんです」と話します。

実際に幸楽窯トレジャーハンティングに訪れた人は……?

この日は、山口県から来たというご家族が幸楽窯トレジャーハンティングを楽しんでいました。新居で使う器を探すために足を運んだそう。

トレジャーハンティングに参加したご家族

新居で使う新たな食器を探しにトレジャーハンティングに訪れたご家族

「新居で使うものを求めて来ましたが、掘れば掘るほど、『こんな器もある!』と驚きばかりでした。お気に入りも見つけることができ、とってもおもしろかったです」と笑顔のご夫婦。90分間をたっぷり使い、トレジャーハンティングで自分たちの生活にぴったりな有田焼を見つけられたようです。

幸楽窯ではアウトレットの有田焼なども販売

正規品やアウトレットも販売

トレジャーハンティング以外にもアウトレットなどの有田焼も販売している

幸楽窯にはトレジャーハンティング以外にも、同窯で作られた正規品の有田焼を扱うコーナーや、通常使用には全く問題ないちょっとした傷、色やデザインのズレで正規品から外れた「アウトレットコーナー」もあります。高品質な有田焼をちょっとおトクに手にすることができるかもしれません。

宝探しのように有田焼と出会う「トレジャーハンティング」を試してみて

400年以上の歴史をもつ有田焼は伝統的な焼物のため高級なもの、と捉われがちですが、毎日の食卓に取り入れるのにもぴったりな器です。有田焼の新たな出会いの形としてこの幸楽窯の「トレジャーハンティング」で、あなただけの器と出会ってみてはいかがでしょうか。

トレジャーハンティングは幸楽窯 徳永陶磁器(株)の公式サイトから予約ができます。予約ページはこちら