冬だからこそ行きたい絶景「那智の滝」
「熊野古道」とは?
熊野古道日帰りルートで「那智の滝」の絶景を見に行こう
1.熊野古道「大門坂」を歩く
2.熊野那智大社へと至る長い階段
3.熊野那智大社へ参拝
4.熊野那智大社のすぐ隣、青岸渡寺と三重塔
5.ようやくゴール!冬の那智の滝を眺める
那智の滝へのアクセス
まとめ

和歌山県に訪れたなら一度は歩いておきたい熊野古道。巡礼の道は厳しいもの、後込みする人も少なくないかもしれません。しかし、ご安心を。熊野古道には「初心者向けコース」があります。それが、今回ご紹介する大門坂~那智の滝ルートです。

通年参詣できる熊野古道ですが、特に「那智の滝」は冬に訪れるのがおすすめ。静かな自然に囲まれ、澄んだ空気の中で大きな音を立てて落ちていく滝の美しさは、ほかでは見られない絶景なんです。

今回は実際に筆者が大門坂〜那智の滝までのルートを歩き、冬の熊野古道で注意すべきポイントや観光の情報もあわせ、その様子をレポートしていきます!

冬だからこそ行きたい絶景「那智の滝」

三重塔と那智の滝

那智山の懐に見える三重塔と那智の滝

和歌山県東牟婁郡那智勝浦町にある那智の滝は、「一の滝」ともいわれ、落ち口の幅13m、頂上から滝壺までの落差は133mという大きな滝で、落差は日本一。栃木県日光市の「華厳の滝」、茨城県大子町の「袋田の滝」と並んで「日本三名瀑」のひとつに数えられ、遠目に見てもその迫力がわかります。

また、那智の滝の上流には、普段は立ち入り禁止区域の世界遺産「那智原始林」にある二の滝、三の滝というのも存在します。

那智の滝は熊野那智大社の別宮、飛瀧神社(ひろうじんじゃ)のご神体であり、しぶきに触れると延命長寿のご利益が受けられるそう。宙に散る水しぶきは、空気が冷え込む冬のこの時期にこそ映え、より神々しく目に映ります。

今回の旅は、那智の滝を目指して、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部を構成する熊野古道を歩きます。

熊野古道はさまざまなコースに分かれていますが、登山初心者の筆者が挑戦するのは、熊野古道のうちでも初心者コースとされる「大門坂」から「那智の滝」までの約2.7kmの道のり。ここを実際に歩き、かつての、そして現代の信仰厚い人々が体験した修行を追体験していきましょう!

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【袋田の滝】冬に滝全体が凍結する氷瀑

茨城県 < 北茨城

袋田の滝の氷瀑

袋田の滝の【氷瀑】は圧巻-滝が氷結する冬だけの絶景 日本三名瀑の一つ「袋田の滝」。茨城県久慈郡大子町に位置し、国の名勝にも指定されています。毎年冬に滝全体が凍結する「氷瀑」へと姿を変え、完全凍結するかどうかで注目。今回は、袋田の滝の見所と観光情報を紹介します。

絶景

「熊野古道」とは?

熊野古道

那智山の杉の森の中を通る熊野古道

熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社の3社は「熊野三山」と呼ばれ、そこに通じる参詣道を「熊野古道」と呼びます。またの名を「熊野参詣道」。熊野古道は古代から神が宿る場所として山を崇めた山岳信仰の修行の場です。熊野古道を自らの足で進み、山々の自然とふれる経験を重ねる。これも修行の一端なのです。

熊野古道は次の6つの道からなります。

*紀伊路(きいじ):大阪府、和歌山市を経て和歌山県田辺市に至る。
*小辺路(こへち):高野山から南北に紀伊山地を渡り、熊野本宮大社に向かう。
*中辺路(なかへち):和歌山県田辺市から熊野本宮大社、熊野那智大社を経て熊野速玉大社に至る。
*大辺路(おおへち):和歌山県田辺市と那智勝浦町をつなぐ、海辺を通る道。
*伊勢路(いせじ):伊勢神宮から熊野速玉大社に至る。
*大峯奥駈道(おおみねおくがけみち):奈良県南部の吉野地方と熊野を結ぶ大峯山を渡る。

本記事で紹介する大門坂~那智の滝ルートは、中辺路の一部分です。「熊野古道」とはこれら6つの道すべてを含む参詣道のことですが、「観光」として言われる「熊野古道」は、特に中辺路のみを示す場合も。

熊野古道日帰りルートで「那智の滝」の絶景を見に行こう

大門坂

足元が険しい熊野古道・大門坂の石段

いざ熊野古道を歩くとなれば、初心者向けコースであってもそれなりの装備が必要。古来、修行の場であったのですから、その道は厳しいもの。散歩程度の気持ちで臨むと、間違いなくつらい思い出となってしまうでしょう。

本記事で紹介する中辺路も、熊野の「那智山」という山の中を歩きます。そのため、散策ではなく、トレッキング(山歩き)に行くつもりで準備をしておくのがベター。

熊野古道に備える服装

熊野古道を歩く観光客の姿

熊野古道を進む人たち。長袖・帽子・リュックサックという装備

*動きやすい服装
身体に合ったサイズで、伸縮性がある素材のものが望ましいでしょう。なるだけ汗をかかなくても済むように、薄手のものを重ね着して、こまめに体温を調節できるようにしましょう。

*インナーウェアは速乾性の素材のものを
汗をかいても身体が冷えないよう、濡れても早く乾いてしまうものを選びましょう。冷えると体力が奪われます。冬場は特に汗で身体を冷やさないように気をつけなければなりません。

*靴下は厚手のもの、靴は足にピッタリのものを
靴・靴下ともに、できれば山歩き用のものを履きましょう。靴下は厚手で足に合ったサイズのものを選び、靴もピッタリサイズの、足を締めつけたり足が靴の中で泳いだりしないものを選びます。ヒールが高いものはもちろんNG。足首を保護できるハイカットのものは歩きやすく疲れにくく、怪我も防げます。

熊野古道を歩くなら揃えておきたい装備品もぜひチェックしておきましょう。

装備品

今回使用した装備品の一部(軍手・ネックウォーマー・飲み水・シューズ)

*タオル
汗を拭いたり手を洗ったりしたときのために。

*飲み水
水分補給はこまめに、量は余裕を持って用意しましょう。ボトルはベルトにつけられるようにしておくと便利です。

*杖
足元が険しいので、足腰が丈夫でない人は山登りやウォーキング用の杖(ストック)を使うと楽です。熊野古道には何カ所か杖を借りられるポイントがありますが、もちろん先着順のため、不安な人は自身で用意しておくといいでしょう。

*手袋
足場が悪く、よろめいたり転んだりして手をついたときに怪我をしないように、また防寒のため、用意しておいた方がいいでしょう。リーズナブルな軍手がおすすめ。

*ビニール袋
ごみはすべて袋に入れて持ち帰ります。濡れた服やタオルを入れておくこともできます。

*リュックサック
荷物はできるだけ小さくまとめて、両手を空けることができるリュックサックに入れて携行します。手にはできるだけ荷物を持たなくていいようにしましょう。その方が疲れにくく、安全です。

いざ熊野古道へ!大門坂へと向かう

なでしこジャパン記念モニュメント

大門坂駐車場のなでしこジャパン記念モニュメント

JR紀伊勝浦駅から路線バスで約30分、「大門坂」バス停で降車。バス停の道を挟んだ向かい側には駐車場があり、そこにはカラスの像があしらわれた、女子サッカーなでしこジャパン記念モニュメントがあります。

このモニュメントのそばに熊野古道マップとトイレがあるので、順路を確認してトイレも済ませておきましょう。大門坂を上りはじめたら、熊野古道を抜けるまでトイレがありません。

乗ってきたバスの進行方向へとさらに徒歩で進むと、左手に大門坂の入口が現れます。ここからいよいよ熊野古道へ。勾配のきつい上り坂からのスタートです。

大門坂へ向かう道

大門坂入口。いよいよ熊野古道へ

普段あまり運動しないという人は、駐車場で準備運動をしておきましょう。平坦な道を歩くのと坂道や階段を上り下りするのとでは使う筋肉が違います。準備が不十分だと、疲れが早く出てしまったり、怪我の原因になったりすることも。全身の筋肉を十分にほぐし、体を温めてから歩き始めるようにしましょう。

1.熊野古道「大門坂」を歩く

鳥居の奥に橋が見える

石造りの鳥居の向こうに赤い振ヶ瀬橋が見える

大門坂入口から5分ほど歩くと石の鳥居と赤い振ヶ瀬橋に出会います。この鳥居と橋が俗世と聖域との境界。橋を渡れば神々がいらっしゃる修行の場です。

振ヶ瀬橋から進んで間もなく「大門坂茶屋」があり、ここには多富気王子(たふけおうじ)のスタンプが設置されています。

多富気王子のスタンプ

大門坂茶屋のわきに多富気王子のスタンプ

ここでいう「王子」とは「Prince」のことではなく、「参詣の途中で儀式を行う場所」を指します。熊野古道の紀伊路・中辺路には「九十九王子」と呼ばれる王子があるのですが、「九十九」とは99という数そのものではなく、それくらい「たくさんある」ということを表しています。九十九王子は、実際には99社ではなく101社。多富気王子は、そのうちの最後の1社です。

大門坂茶屋を過ぎると道の右と左に杉の巨木が1本ずつ並んでいるのに出会います。これが夫婦杉です。樹齢800年の杉の木が道を挟んで門構えのように立ち、熊野古道のさらに奥へと誘っているよう。高さ55m、幹の周囲は8.5mという立派な杉が並んでいる姿は壮観です。

夫婦杉

杉の大木が寄り添う夫婦杉。撮影スポットとしても人気

夫婦杉を通過すると、大門坂を昇りきるまでは森の風景が続きます。冬の山は空気が澄んでいて、空気に触れる顔がひんやりとします。歩いていくと身体が温まり、徐々に汗ばんできました。

大門坂は足元が石造りになっていますが、石が不揃いで平らではなく、段の高さも均等ではありません。歩くのがつらくなってきたら無理をせず、少しずつ進みましょう。冬でもこまめな水分補給は忘れずに。

2.熊野那智大社へと至る長い階段

参道の階段

はるか先まで続く参道の階段

大門坂を昇りきると一般道に出ます。民家のわきを通りすぎて路地を行くと、熊野那智大社の参道はすぐそこ。参道の道標の下から示された方向を眺めると、長い長い階段が彼方まで続いています。

参道の階段は全部で470段。40段ほどを一区切りに踊り場が設けられているだけでなく、休憩できるベンチも置かれています。自分のペースでゆっくりと上ってください。

休憩や寺社の境内などの平地をゆっくり歩くと、汗が冷えて寒くなってきます。那智勝浦町は本州最南端の近くに位置していて暖かい土地ではありますが、冬の空気はやはり冷たいもの。風邪をひかないよう気をつけてください。

3.熊野那智大社へ参拝
一の鳥居

熊野那智大社一の鳥居。まだ階段は続く

長い階段を上り終えるとその先に、朱塗りの「一の鳥居」が待っています。鳥居に着いたものの、その先に拝殿は見当たらず、さらに階段が続きます。

次に出会った二の鳥居をくぐれば、今度こそ熊野那智大社の境内です。鳥居から右手に進めば拝殿の堂々たる佇まい。早速お参りしましょう。

熊野那智大社拝殿

朱の色がうつくしい熊野那智大社拝殿

参道から数えて全部で473段を上り、ようやく神様にお会いできました。

お参りと言えばお願いごとをするもの……と思いがちですが、神様を前に手を合わせたら、自然と「怪我もなく無事にここまでたどりつくことができました、ありがとうございます」とお礼を伝えていました。

ヤタガラスの像

御縣彦社の前には八咫烏像があります

拝殿に向かって左側には御縣彦社(みあがたひこしゃ)。熊野の神の使いである3本足のカラス「八咫烏(やたがらす)」が祀られています。

八咫烏はものごとをよりよい方向へと導いてくれる神様ですが、ボールをよい方向へ導くとして日本サッカー協会のシンボルにもなっています。大門坂駐車場のなでしこジャパン記念モニュメントにもカラスがいましたが、これも八咫烏でした。

大きなクスノキ

樹齢850年の大クス。この木の中に入れます

拝殿に向かって右側には巨大なクスノキが立っています。これが樟霊社(しょうれいしゃ)のご神木で、樹齢は熊野古道の夫婦杉よりもさらに年長の850年です。平安時代の終わり頃からこの地を見守り続けるご神木は幹の中が空洞になっていて、その中をお参りすることができます。

鳥居のわきに護摩木が備えられており、300円を納め、名を書いてご神木の中を通り抜けます。ご神木の胎内には賽銭箱があるため、お願いごとをしてみては。

巨大なおみくじ

授与所の前には一抱えもある大きなおみくじが

樟霊社すぐそばには熊野那智大社・御縣彦社・樟霊社の3社共通の授与所があり、そこでおみくじ(100円)をひくことができます。とても大きなおみくじが置いてあるので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

4.熊野那智大社のすぐ隣、青岸渡寺と三重塔

菩薩像

青岸渡寺本堂前の円光を戴く菩薩像

熊野那智大社でおみくじをひいて、さらに右手に進むと青岸渡寺の境内につながっています。

こちらではご本尊の如意輪観音にお参りをしましょう。気をつけなければならないのは、青岸渡寺では柏手を打ってはいけないということ。神様には柏手を打ちますが、観音様には打たないのです。

青岸渡寺本堂熊野那智大社側から青岸渡寺本堂を見る

お参りを済ませたら境内の奥へ。本堂の右手へとまわり込むと、いよいよ那智の滝が見えてきます。青岸渡寺から眺めるだけでもその神々しさは感じられるのですが、ここまで近くに来たのなら、やはりお滝拝所まで足を伸ばしておきましょう。滝へと向かう道は、ここから下っていくことになります。

ここからは、那智の滝がご神体として祀られている熊野那智大社別宮・飛瀧神社(ひろうじんじゃ)まで石造りの階段を降りていきます。この階段は大門坂の段のようにでこぼこしていて、足場が不安定です。途中、青岸渡寺の三重塔の前を通ります。こちらもぜひ拝観しましょう。

三重塔

青岸渡寺三重塔。本堂からは離れた場所

三重塔は高さ25m。青岸渡寺本堂とは別に、飛滝権現本地千手観音が祀られています。御朱印が受けられるほか、上階は展望所になっていて、那智の滝もよく見えます。

5.ようやくゴール!冬の那智の滝を眺める

遠くに見える那智の滝

飛瀧神社の社務所前でご神体を臨む

三重塔を経てさらに下り、「那智の滝前」バス停まで降りたなら、飛瀧神社の鳥居はすぐそこです。鳥居をくぐり、さらに階段を下ると、那智の滝が正面に出現。静かな森の中に激しい水の流れが荘厳で、どうどうと鳴る流れの音が冬の冷たい空気を震わせます。まさに絶景!

那智の滝の左手に授与所があり、そこで参入料300円を納めると「お滝拝所」という、滝の間近まで行くことができます。授与所前でもかなりの迫力の滝ですが、もっと近くで神なる滝を拝することができるのです。

お滝水

龍の口から出るお滝水には延命長寿のご利益が

お滝拝所の手前には「延命長寿のお滝水」をいただける水場があります。初穂料100円を納めれば「お滝水」、つまりご神体である滝の水、神様を身体の中にお迎えすることができるのです。なんだか長生きができそうです。

お滝水から少し階段を昇ると、舞台状になったお滝拝所に行き着きます。ここが那智の滝、飛瀧神社のご神体に最も近い場所です。騒ぐ水音、響く空気、陽光にきらめく水しぶき……落差・水量ともに日本一の滝の力が、間近に迫ってきます。

くで見る那智の滝

お滝排除の舞台から見る那智の滝

この清々しさ、神々しさ。水の冷たさ、冬の張りつめた大気が身体を取り巻いて、聖域の厳かさを全身に感じさせます。大門坂を昇り、参道の階段を昇り、やっとたどりついた那智の滝は、長々と徒歩で昇ってきた苦労や疲れを払い落としてくれるかのような絶景でした。

那智の滝へのアクセス

電車でのアクセス

最寄り駅:那智勝浦駅

熊野交通バス / 那智山方面
→【滝前】バス停→徒歩(約3分)

車でのアクセス

最寄りIC:那智勝浦新宮道路「那智勝浦IC」
那智の滝周辺の駐車場:青岸渡寺駐車場 那智の滝第一パーキング 那智の滝第二パーキング パーキング奥之院

熊野の山で神秘の体験を

大門坂から那智の滝へと至る熊野古道は初心者向けコースではありましたが、古来の修行の場であるだけに大変厳しい行程でした。今回、古代の修行の場へ踏み込み、体力があっても普段使っていない部分が酷使されるため、どうしても足が悲鳴を上げることがわかりました。普段の徒歩の移動も整備された道しか歩いておらず、体が怠けている証です。

ですが、これに負けることなく歩き通したときに見えるものは、おそらく日常の世界では目にすることができないものです。

難関を踏破した先で神に出会う、神のいらっしゃる場の空気にふれるという体験は、何とも清しいものですし、神秘的と言っても過言ではありません。ぜひチャレンジしてみてくださいね!